炭素原子に4つの異なる原子団が結合すると、鏡像異性体が存在することがある(実は、異性体にならないこともあるのだが、それに関しては、別の機会に・・)ことはエナンチオマーの項で述べたが、このときこの炭素のことを“キラル炭素”あるいは“不斉(ふせい)炭素”と呼ぶ。

 アミノ酸や糖類の場合、エナンチオマーを区別するために“”や“”という記号を使うことが多いし、その他のモノでも“(+)”や“(-)”で区別することは多い。これらは、比旋光度に基づく分類であり、化合物の構造に基づくものではないにいたっては、基準となる物質との立体構造上の類似から付けられた慣用名であり誤解を生じることすらあるし、基準となるもののない構造であると命名することが出来ない。
 化学の世界では、万国共通な命名法というものが存在する。化合物の命名を、その規則(IUPAC命名法という)にしたがって行なっておけば、(英語で書かれた原子名等が理解さえ出来れば)世界中だれでも正しい構造を書くことが出来るのである。その命名法の中に、キラル炭素上の立体配置(注)に関するものがあり、それが“RS命名法”である。

 簡単に説明すると、

  1. キラル炭素についている原子団に優先順位を付ける
  2. 分子の三次元モデルを、最も優先順位の低い原子団の反対側から見る
  3. 他の3つの原子団を優先順位の高い順にたどったとき、時計回りのものを配置(Rはラテン語のrectus、つまり「右」から来ている)、反時計回りのものを配置(Rはラテン語のsinister、つまり「左」から来ている)とする


優先順位というのは、IUPAC命名法全般で使われるものであるが、簡単に言うと
  1. 大きな原子番号の原子は優先順位が高い
  2. つまり、N(窒素)よりO(酸素)のほうが優先順位が高いし、Cl(塩素)よりBr(臭素)のほうが優先順位は高い。
  3. キラル炭素に直接ついている原子が同じときは次の原子を比べる
  4. 同じ炭素原子がついているときは、その炭素についている原子を比べるというわけである。優先順位の同じ原子がついている場合はその数を比べる。
  5. 多重結合(二重結合や三重結合)の場合は、結合の数だけ、その原子がついているとする
  6. つまり、C=Oのときは、炭素に酸素原子が2つ結合しているとカウントするわけである。

実例で示そう。
 2-ブタノールは、水酸基(OH基)の結合している炭素がキラル炭素である。
 二つのエナンチオマー(下図)のキラル炭素のまわりの原子団の優先順位を見ると、OH>C2H5>CH3であり、そのまわり方から判断すると、左の化合物は、(R)-2-ブタノール、右の化合物は(S)-2-ブタノール、となる。このように、は( )の中に入れイタリック体で書くのが決まりである。


 このように書けば、いちいち立体的な“絵”を書かなくても正確な立体配置を伝えることが出来るわけである。
画像添付しなくても、EーmailだけでOKなわけである(^_^;)。